第2回 東京学芸大学附属国際中等教育学校 公開研究会①
2011年2月19日(土)、東京学芸大学附属国際中等教育学校の第2回公開研究会が開催されました。
研究テーマは、「グローバル化社会に生きる中等教育学校生の学びのすがた」で、副題として「国際標準の教育システムを生かした学習評価、教科間連携、ESD、外国語による学習とJSLのあり方を探る」を設定しています。国際教養の授業について、お伝えします。(当日の資料より適宜引用しています。)
東京学芸大学附属国際中等教育学校のプロフィール
東京学芸大学附属国際中等教育学校は、前身の附属大泉中学校(国内の国公立学校としては初の海外帰国生徒学級を併設)と、附属高等学校大泉校舎(1974年に海外帰国生徒のみの学校として設置)を再編統合して2007年に創立されました。これまでの帰国生徒教育から蓄積してきた視点と、これからの国際社会で活躍でき国際社会に貢献できる人材に対する展望を統合し、多様な経験と視点・価値観有する生徒が相互に高め合うことができる空間と時間そして教育システムを提供する場です。2010年2月には国際バカロレア機構(IBO)が提供する世界標準カリキュラム「ミドルイヤーズ・プログラム」(MYP)の正式認定校(IB校)となりました。
毎学年、海外教育経験者の編入を受け入れることから、人数構成は学年によって異なりますが、最終学年においては概ね日本の教育経験者が6割、海外の教育経験者が4割という構成になっています。西武新宿線大泉学園駅から徒歩約8分。池袋駅から電車で15分ほどですが、住宅街の中に大木がそびえる緑濃い敷地が落ち着いた環境をつくりだしています。
生徒数 (2011年4月10日現在 同校ホームページより)
| 学年 | 1年 | 2年 | 3年 | 4年 | 計 |
| 男 | 46 | 48 | 47 | 46 | 187 |
| 女 | 58 | 63 | 67 | 68 | 256 |
| 合計 | 104 | 111 | 114 | 114 | 443 |
〔2013年度には全6学年となる〕
「国際教養」とは
「国際教養」とは、学習指導要領で示される総合的な学習の時間、道徳および学級活動を統合し、さらにそれらの領域と教科学習との連携を図り、学習の深化・補充・統合を目ざす学習として位置づけられる、学校設定の新領域です。「人間理解」「国際理解」「理数探究」「Learning in English」を柱として内容構成を図っています。到達目標は、第5学年終了時に生徒1人ひとりが英語を用いてディスカッションできる力を獲得し、海外をも視野に入れて学びの成果を広く発信し、交流に意欲的に取り組むことができる生徒の育成です。
ディスカッションについては、グローバルな視点から解決が求められる諸問題について自分の考えを英語で表現し、他者と議論する力を獲得することを目指します。
また、ESD(持続可能な発展のための教育)の学習で重視する能力や態度は、MYPのそれらと重なるものであり、「国際教養」においてもESDの学習のあり方を探っていきます。
授業
2月19日(土)10:30~11:20 場所:教室(黒板の上に学年目標「自分に何ができるか」と大書した紙が貼ってあります。)
3年1組 32名(男子15名、女子17名、うち海外教育経験者13名)
学習領域:国際教養 単元:法教育「法は誰のためにあるのだろう」
授業者:古家正暢 教諭
〈前時までの学習と今後〉
本年度の「法教育」の指導計画は全5時間です。これまでに、第1時:「私たちは無意識のうちに罪を犯していないか」、第2時:「One for All でいいの?―みんなのために自分は我慢しなければならないの?―」、第3時:「そもそもルールを決める方法自体が問題ではないの」という学習をしてきました 。本時は第4時間目にあたります。このあと、第5時には「私たちはヒトを裁けるのか?―『死刑』制度を考える―」を行う予定です。
また、フィールドワークを2010年12月に実施し、東京地方裁判所の裁判員裁判傍聴、第一東京弁護士会所属の弁護士との質疑応答(弁護士会館)をしました。
〈恒例1分間スピーチで始まり〉
先生:「今日は『法は誰のためにあるのだろう』ということをみんなとともに考えていきたいと思います。その前に、いつもの新聞学習として1分間スピーチをお願いします。」
女子1:「この新聞記事は人間関係をめぐるトラブルによって起こった傷害致死事件の裁判員裁判の判決について書かれています。判決としては、この事件は傷害致死事件として認められず、暴行罪だけで済みました。実は、この裁判は先月〔2010年12月〕のフィールドワークで、東京地裁を訪れたときに法廷で実際に傍聴したものです。実際に見てみると、私は最初この事件の説明を聞いた時、『これは被告人だけでなく、亡くなってしまった被害者にも非があるんじゃないか』と思っていたけれど、被害者の遺族が涙をこらえながら、事件の日のようすを法廷に立って話したり、そんな遺族の姿を見て、顔をゆがませる被告人の姿を見ると、どうしても感情に流されてしまいそうになりました。私情を裁判に持ち込まないというのは、とても難しいことだと思うけれど、これから先、もし人の命を裁くような立場に立ったとしたら、一方的な方向で考えないで、たくさんの方向から考えて、そこから見えてくるものを信じたいと思いました。(原文のまま)」
〈導入その1は大阪駅のエスカレーターの写真〉
先生:(スライドで、3本のエスカレーターを上る人々が写っている写真を見せながら)「この1枚の写真を見て気づいたことはありますか?」
女子2:「こっちの方ばっかりにいて、(先生:「右ね。」)こっちはいない。」(先生:「左。」)
男子1:「東京なら左に人がいるのに、右にいる。」
先生:「そう、これは大阪駅です。どちらに立とうか迷ったことのある人、いませんか?」
→5人挙手。
先生:「東京だと右側を空けるのは、一種のマナーではありませんか?マナーはどこも同じという感じでしょ?なのに、日本の中でも東京と大阪で違う。なぜ?新聞で検索したら、ありました。大阪大学学長の鷲田先生の「『正しいもの』が左にくる」(読売新聞の記事)です。鷲田先生は「そもそもエスカレーターは何のためにあるのだろう」と考えました。」(資料プリントとワークシート配布)
男子2:「体の不自由な人のため。」
男子3:「お年寄りとか。」
先生:(資料を音読した後)「ワークシートの1「エスカレーターのマナーからわかったこと」を書いてください。一昨日もマナー討論会をして、マナーを守ろうと話しました。しかし、マナーって所により違う。パッと書いてください。」
〈導入その2はW杯南アフリカ大会幻のゴール〉
先生:(電子黒板に2010年サッカーワールドカップの映像を映して)「W杯南アフリカ大会で印象に残ったことは何でしたか?」
男子4:「ランパートのシュートがゴールにならなかったこと。」(男子数名が同意見表明)
先生:「ドイツ対イングランドの決勝トーナメント1回戦の試合でした。ドイツが2点先取し、イングランドが1点取り返した後のゴールは、写真で見ても入っています。ランパートは言いました。『みんなわかっていたのに、2人にだけわからなかった。それが主審と副審だった。審判がノーゴールと言ったらノーゴール。それがルールなんだ。』と。ワークシートの2、「ルールに従うということからわかること」を書いてください。」
〈主題は労働者派遣法と派遣労働者の問題〉
先生:「さて、問題です。現代社会の地球規模の課題はいろいろあり、(省略)「私の応援する会社」というのをやりましたね。日本に絞ったら、どういう問題がありますか?」
女子3:「少子高齢化。」
先生:「それ、大きいね。他に?」
男子5:「大学生の就職内定率の低さ。」
先生:「そう、大学生に仕事がないこと、問題です。(スライドに「不景気」と出る。)今日の授業は、東京学芸大学の学生の中島さんが原案を作って改造したものです。もしあなたが会社経営者だったら、どのような工夫をしてこの不景気を乗り切りますか?」
男子6:「どんな会社ですか?」
先生:「考えていなかった。ものづくり。DVDを作る会社にしようか。それとも食べ物屋さん?」
女子4:「(食べ物は)絶対必要なものだから、ぎりぎり安くして、たくさん売って利益を上げる。」
男子7:「新しい資源の開発とか、海外へ探しに行って投資する。」
男子8:「どういう製品かによって、業界の中で何か差をつけられることがないか考え、開発する。」
男子9:「似たような会社を集めて合併して、無駄をなくす。」
女子5:「これから売れそうな分野、老人の好むものをする。」
先生:「もしアイス菓子製造の会社だったらどうですか?」
女子6:「夏に作る量を増やし、冬は減らします。」
先生:(小さな声で発言した生徒の言葉を受けて)「そう、派遣。夏だけ労働者が多く必要だから、派遣社員を雇います。冬はいらないから、コストが安くなり、売れて儲かる。正社員が20人いる場合、給料と交通費でいくらかかるでしょう?仮に月給をいくらとすると、(実際に計算式を出して)1億円になります。これを、夏だけ20人派遣社員を雇う場合、半年間で3000万円。安いよね。派遣とはこういうものです。
〈非正規雇用者の増加と法改正の関係〉
先生:(正規・非正規雇用者割合の変化のグラフを示して)「これは「連合〔日本労働組合総連合会〕」が統計を取ってグラフ化したものです。このグラフからどんなことが読み取れますか?」
女子7:「非正規雇用者が2003年ごろから増加して、正規雇用者が減ってきています。」
先生:「そうです。1986年に労働者派遣法ができ、1999年から派遣を原則自由にしました。2004年には、派遣期間を最大3年に延長でき、製造業にも認めることになりました。こういうのを規制緩和と言います。働き方の多様性ができていいと言われますが、次のグラフから何が読み取れますか?(派遣法改正と派遣労働者数の変化のグラフ)」
男子10:「法改正とともに派遣労働者が増えています。」
〈まとめは生徒が力を発揮〉
先生:「では今日の授業を振り返ってみよう(ワークシート)です。エスカレーターのマナーからわかったことは?」
男子11:「それぞれの地域にマナーやルールがある。」
先生:「ローカルルールがあるということですね。」
男子12:「人によってマナーは違う。」
先生:「プリントにあったように、『人ってみんな正しいと思っていることが違うんですね』ということ。次に、幻のゴールからは?サッカー部の人、どう?」
男子13:「ルールは絶対的とは言えないのではないか。」
先生:「こんな事例はありますか?」
男子13:「スローインのときなど、似たようなことがありますけれど、ルールだから仕方ないな、と。」
先生:「サッカー部の顧問の先生に、『ビデオ判定すべきではないですか?』と聞いてみたら、『もうその審判はW杯に出られない。ビデオ判定できない国もあるので、みんな同じルールでやることがいい。』と言われました。どう思いますか?」
男子14:「完璧な人間なんていないと思います。野球のMLBで、あと一人で完全試合を逃したことがあって、ピッチャーが審判に『誰にも間違いはある。』と言って慰めたそうです。そういうものも必要だと思います。」
男子15:「テニスでは、ビデオで(見てほしいと選手が)チャレンジできる制度があって、4大大会では選手が3回までチャレンジでき、判定してもらえます。サッカーも大きな大会には導入されるべきだと思います。」
男子16:「陸上では、手動と機械ストップウォッチの記録を区別しています。分ければいいと思います。」
先生:「こんなにいろいろ意見が出るとは思いませんでした。嬉しい。派遣法改正からは、どんなことがわかりましたか?」
男子17:「会社の立場からは、利益の方が重要。労働者にとっては、安定した仕事が見つからないことになる。会社中心(の法改正)だと思います。」
男子18:「日本は資本主義なんだから、いいと思います。」
男子19:「そうしていると不景気から抜け出せない。まわりまわって、会社も儲からないと思います。」
先生:「今の意見について男子18君、どうですか?」
男子18:「そういう考え方もあるけれど、弱者を救い続けると会社自体も傾く。世界的に見たとき、勝てなくなるのではありませんか?」
先生:「グローバル化だね。見方によって違いますね。では、法は誰のためにあるべきかな?」
女子8:「全国民。」
先生:「みんなのためにあるべきだよね。」→女子8:「できれば。」
先生:「法は弱者のためだけでは、よくないのではないか?法が「誰のため」というのはおかしいのではないか?本日のエッセンシャル・クエスチョン。『法に対して自分に何ができるか、何をすべきか、を問い直してみよう。』今は中学生だからできないけれど、将来は?ワークシートに書いて、提出してください。」
ここまでの取材を終えて
まとめの生徒と先生の対話は圧巻でした。法教育の授業では、少人数のグループ討論がよく行われますが、先生をコーディネーターにクラス全員で討論していました。いろいろなスポーツのルールの話、会社経営についての議論が素晴らしかったと思います。授業の目標は、「法とは何か」「自分にできることは何か」を考えることでしたが、生徒はどう考えるのでしょう。このあとも続きがあればいいのに、と思いました。
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